「令和版:海に生きるもの」相武AIの著書のご紹介

令和版:海に生きるもの

相武AIの著書のご紹介

「海に生きるもの」は「船は生きてる」で語りつくせなかった話題を続編として出版した作品です。どちらを先に読んでも同じように楽しめますが、お勧めとしては、「無人島に生きる十六人」「船は生きてる」「海に生きるもの」の順で読めば、海洋に関する話題の通人になれると思います。挿絵の数は60枚と、「船は生きてる」の倍以上となっています。

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漂流記・無人島生活記である「無人島に生きる十六人」に出会い、その面白さを現代の読者に知らせたい一心で、原文にできる限り忠実に現代語訳し、多数の挿絵を描いた「令和版」を出版したことがきっかけで、須川邦彦氏の作品にのめりこみました。

須川邦彦氏の海洋フィクション・ノンフィクションで面白いのは、海の男である同氏の視点で、明治から昭和初期の海洋事情が生き生きと詳細に描かれていることです。

「無人島に生きる十六人」の登場人物16人が乗っていたのは、重量がわずか76トンのスクーナー船であり、明治時代の海の男たちは、100トンにも満たない帆船で、平気で七つの海を駆け巡っていたのです。

大型の帆船、蒸気機関を備えた汽帆船、そして汽船、これらが混在しつつ徐々に船は大型化し、軍事対応力も強化されていくのですが、須川氏の作品を読むと、その発展の様子がまざまざと目の前に展開している気持ちになります。

「令和版」シリーズの最大の特徴は豊富な挿絵にあります。本来、全ての情景を文章で彷彿とさせるのが小説ですが、「2本マストで76トンの帆船」と言われても、実際の構造や規模を正しく思い浮かべられる人は稀です。また、太平洋・インド洋で遭遇する動植物、自然現象についての様々な記述に接して各々の読者が頭に描く画像・映像は、千差万別です。私は現代語訳の作業工程を通じて、途方もないほどの調べ物をして、文章のそれこそ隅々まで熟読するので、原作者が頭に描いていたイメージを大多数の読者より鮮やかに再現することができる立場にあります。

例えば、「無人島に生きる十六人」で座礁した76トンの帆船から荒波の中を、大きな岩場へと退避する様子を描いた挿絵は以下のようなものでした。

16人の乗組員が力を合わせて必死の退避活動。 ©2023相武AI/Dall-E2

この挿絵は私にとっては長時間かけてやっと描いた大変な力作ですが、もし画家に依頼したら(対価を度外視して)何十日もかかるはずです。しかし、AIが2022~2023年に日進月歩のように長足の進歩を遂げた結果、画家でない私にも、このレベルの挿絵が描けるようになりました。

勿論、一発で描けるのではなく、テキスト・プロンプトを色々工夫して試行錯誤し、数枚~数十枚の画像を生成しつつ頭の中のイメージに近づけて行き、それにAdobe Photoshopなどのソフトウェアを駆使したり、タッチペンで手書き修正を加えたりして、やっと完成させるわけです。

また、本書「令和版:海に生きるもの」では、実在した船舶、実際の動物などの画像を引用し、読者の方がいちいち気になって調べなくても、イメージできることを目標に多くの作業を費やしました。Public domainの画像は限られているので、Creative Commons License下で、特定の条件を満たすことで使用可能な画像も幾つか掲載しました。それらの画像については、英語での著作権表記が各画像の下に記されています。

「海に生きるもの」は1942年12月に出版され、著者須川邦彦氏は1949年に逝去したので、全ての著作権は2019年までに消滅したと考えられますが、「無人島に生きる十六人」と違って、原文のデジタル・テキストが存在しないため、印刷物から文字起こししなければなりませんでした。戦前の印刷物はフォントが非常に不鮮明であり、汚れも多く、何といっても旧字体なので、解読には非常に苦労しました。現在では使われていない旧漢字は勿論のこと、インターネット上のどこを調べても該当しない漢字や、おそらく当時でも一部の人にしか読めない造字もありましたが、最終的に全ての漢字を解読し終えた時には強い達成感を覚えました。

昭和17年と令和では日本語の表現が微妙に(といってもかなり大きく)変遷しており、それをどこまで現代語に合わせるかを迷いました。結局、多少不自然な感じが残っても、原著の雰囲気を味わえるよう、原著を損なわないようにという気持ちで訳したつもりです。

江戸時代の文章や漢詩が諸所に引用されており、そのまま転記しても理解してもらえそうにない部分は現代語訳を付記するか、文脈によっては現代人にもほぼ読み取れるような中途半端な現代語化をしました。それにしても、昔の人は古文が好きだなと思った次第です。

文字起こし、解読、現代語化の各段階にはAIを活用しました。これら全ての工程を一人で実施することは、2022年12月までなら(ChatGPT発祥以前の地球では)ライフワークとなったかもしれません。勿論、最終的な出版物の価値は作家(令和版の場合は私)の腕で決まるのですが、AIは一定のルールに従って処理するような、いわゆる泥臭い作業を私に代わってやってくれます。ChatGPT自体もどんどん進化しているし、対抗馬となるAI(文書関係ならClaude 2.1)も日進月歩で競うように進化しており、数年のうちには、泥臭い部分は全てAIを使ってできるようになるのではないかと思います。

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「令和版プロジェクト」とは、明治、大正から昭和中期までに出版された古い文体の書物を、原著の味わいを保ちつつ旧字体・旧仮名づかいを改め、現代の読者が読みやすい文体にして、豊富な挿絵の入った「令和版」として再デビューさせる。そんな発想で開始したプロジェクトです。

 

 

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