ソロパフォーマンスプロンプティング(SPP)とは

ソロパフォーマンスプロンプティング (solo performance prompting, spp)
出典:Zhenhailong Wang et al. 論文(本文参照)

「ソロパフォーマンスプロンプティング(SPP)」という聞きなれないキーワードが登場しました。Google検索したところ日本語でヒットする記事は皆無でしたが英語で “solo performance prompting” を検索すると、約40件のヒットがあり、全て2023年7月以降の記事でした。

結局、solo performance promptingという言葉は2023年7月11日に発表されたZhenhailong Wang et al.による論文(本記事の後半に収載)がきっかけに広まったものだと判明しました。簡単に言えば「ChatGPTなどの大規模言語モデルに複数のペルソナを与えてペルソナ間で対話させることによりタスクを解決する」というものであり、同論文には学術的な使用例が幾つか記されていますが、私が「これは面白い」と感じたのは、solo performance promptingによってAIに複数の人物間での対話をさせるという使い方です。(同論文の中で参照されている他者の論文の中にそのような使い方が記されています。)

それではChatGPTを使って実験してみましょう。

私からの質問:

あなたは複数の人格を持っており、各々の人物に成りきって思考し発言することができます。
Person 1: クレオパトラ
Person 2: 楊貴妃
Person 3: 小野小町
この3人の間で「人間の美しさとは何か」について自由に討議してください。各人が少なくとも5回発言し、最後にクレオパトラに3人の意見をまとめさせてください。

ChatGPTの回答:

クレオパトラ: 皆さん、美しさとは何かについて議論しましょう。私の時代においては、美しさは権力と知性、そして魅力に関連していました。美しさは、人々を引きつける力として使われました。

楊貴妃: 私の中国の宮廷での生活では、美しさは繊細さ、品格、そして身体の特徴に基づいていました。特に曲線的な美しさや、優雅な動きは高く評価されていました。しかし、美しさは内面の優しさや気品とも深く関連しています。

小野小町: 日本の平安時代には、美しさは詩や文学を通じて表現されることが多かったです。白い肌や艶やかな髪は外見の美しさの象徴でしたが、心の中の感受性や情熱もまた美しさの一部でした。

クレオパトラ: 小町さんのおっしゃる通り、外見だけでなく、心の美しさも非常に重要です。私たちの時代では、美しさがどのように定義されるかは異なるかもしれませんが、それぞれの文化や時代において、美しさは様々な側面で評価されていることが分かります。

楊貴妃: そうですね、美しさは主観的なものであり、時代や文化によって異なる定義が存在します。しかし、真の美しさは時間を超えて普遍的なものとして存在するとも言えます。

小野小町: 人々が美しさを追求することは、自分自身を高め、より深く人間としての存在を理解するための手段とも言えるでしょう。美しさは、外見だけでなく心や精神にも関連しています。

クレオパトラ: 確かに、美しさは私たちの内外の両方に存在し、それを追求することで人間は成長します。それでは、私たちの議論を総括すると、美しさは外見だけでなく、心や精神、そして個人の行動や態度にも関連していると言えるでしょう。

楊貴妃: 私たちの議論から、美しさは人間の多面的な存在を反映しており、それを完全に理解することは難しいかもしれませんが、それこそが美しさの魅力ではないでしょうか。

小野小町: 美しさの本質は、それを追求する過程において、私たち自身の中に存在する真実と向き合うことにあるのかもしれません。

クレオパトラ: まとめとして、美しさは外見、心、精神のバランスであり、それは時代や文化を超えて普遍的なものとして存在します。私たちの議論から、美しさを追求することは、自分自身との対話とも言えるでしょう。

参照文献:

“UNLEASHING COGNITIVE SYNERGY IN LARGE LANGUAGE MODELS: A TASK-SOLVING AGENT THROUGH MULTI-PERSONA SELF-COLLABORATION (大規模言語モデルにおける認知的シナジーの解放: マルチパーソナの自己協力による課題解決エージェント)” by イリノイ大学 Zhenhailong Wang et al. July, 2023 参照:https://arxiv.org/abs/2307.05300

これは、大規模言語モデルをより効果的にタスク解決に利用するための新しいアプローチ「ソロパフォーマンスプロンプティング(SPP)」について説明している論文です。

SPPは、1つの大規模言語モデルを「認知的協調者」として機能させることで、複数のパーソナを同定し、自己対話を通じてタスクを解決することができるようにします。具体的には、モデルはまず、与えられたタスクに応じて、その解決に寄与できる参加者(パーソナ)を同定します。次に、各パーソナが専門知識に基づいてタスクへのアプローチを提案します。その後、リーダーパーソナが初期解を生成し、他のパーソナからフィードバックを得て、答えを反復的に改善していきます。

論文では、SPPを知識集約型と推論集約型のタスクに適用しています。知識集約型のタスクとして、トリビアの回答を組み込んだ物語生成の「トリビアクリエイティブライティング」を新たに提案しています。SPPは標準プロンプトよりも事実誤認を大幅に減らし、正確な知識獲得を支援していることが確認されています。推論集約型のタスクとしては、「コードネームズコラボレーティブ」と「ロジックグリッドパズル」を使用しています。SPPはこれらのタスクでも良好な性能を示しており、知識獲得と推論の両方の能力を高められることが示されています。

要するに、SPPは大規模言語モデル内での認知的協調を実現し、知識集約・推論集約の複雑なタスクに対するパフォーマンスを大幅に改善できる有望なアプローチだということです。

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今回の実験にはクレオパトラ、楊貴妃、小野小町というChatGPTが世界を代表する美人と認識しているペルソナを使いましたが、別途、個々のペルソナについて詳細な定義を加える用例を「」に示したので、ご興味のある方はそちらもご覧ください。

 

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