猫好きで、AIを多用する人には朗報?
LongCat=長猫は、中国のフードデリバリー・O2O大手企業である美団(Meituan)が開発・公開している大規模言語モデル(LLM)のブランド名。インターネット上の猫ミームであるLongCatに由来している
1.6兆パラメータを「国産チップ」で訓練したLongCat-2.5、その真価は「Agentic」にあり
中国の美団(Meituan)が2026年11月2日に発表した大規模言語モデル「LongCat-2.5」が、AI業界で静かな、しかし確実な波紋を広げている。総パラメータ数1.6兆、ネイティブ・マルチモーダル、そして訓練の全工程を中国国産のAIアクセラレータで完了したという三点が、このモデルの本質を物語っている。
単なる「また中国製の巨大モデルが出た」という話ではない。LongCat-2.5が投げかけているのは、「計算資源の制約下で、どこまでフロンティアに迫れるか」という、AI産業全体にとって普遍的な問いへの一つの答案である。
「国芯国模」の現実味
LongCatシリーズの歩みは速い。2026年6月に登場したLongCat-2.0は、国産算力上で兆パラメータ級モデルの訓練と推論を初めて完遂した。そこからわずか5ヶ月で、2.5はパラメータ数を1.6兆まで押し上げ、ネイティブ・マルチモーダル能力を獲得した。
重要なのは、これが「国産チップでも動きました」という単なるデモではない点だ。技術ブログによれば、美団は国産アクセラレータの単カードあたりのメモリ容量が小さいという制約に対し、超ノード内の高速相互接続を活用してパラメータとタスクデータの通信を完結させる最適化を施した。その結果、長文脈の教師あり微調整タスクにおいて、単カードの訓練スループットがDDPベースライン比で86%向上したという。
推論側ではW4A4量子化(重みとアクティベーションを同時に4ビット化)を採用し、W8A8 INT8ベースラインと比較して入力処理とトークン生成のスループットをそれぞれ約4割向上させ、初回出力までの待ち時間を約16%、トークンあたりの生成時間を約20%短縮している。
これらの数字は、国産ハードウェアの制約を「ソフトウェアとアーキテクチャの工夫」でどこまで補えるかを示す実証データとして読める。NVIDIAの最新チップを使える環境との絶対的な性能差は残るとしても、同じ制約条件下での最適化効率という観点では、注目に値する水準に達している。
ベンチマークの「読み方」に注意が必要
LongCat-2.5の性能主張で最も議論を呼びそうなのが、ベンチマーク結果の解釈である。
美団の発表によれば、LongCat-2.5は複数の主要ベンチマークでClaude-Opus-4.8とClaude-Opus-5の間に位置し、一部の指標ではOpus-5を上回る。具体的には、AutomationBenchで51.8(Claude-Opus-5は50.3)、BrowseCompで91.9を記録し首位に立ったとされる。
ただし、ここには注意が必要だ。サードパーティによる分析では、Terminal Bench v2.1ではLongCat-2.5は88.4で、GPT-5.6 Solの88.8、Claude-Opus-5の89.1とほぼ肩を並べる一方、より新しく難易度の高いv4.0では38.5にとどまり、Claude-Opus-5の53.9に大きく水をあけられている。同じ「Terminal Bench」という名前でも、バージョンによって順位が入れ替わるのである。
これはLongCat-2.5が「ダメ」という話ではない。v4.0は、環境が抵抗してくるような長期的なエージェント型コーディングを想定した、より実務に近いテストだ。そこでLongCat-2.0の3.0から38.5へと12倍以上の改善を見せていること自体は、世代間の進化として評価すべきだろう。ただ、「Opus-5を超えた」という見出しを鵜呑みにするのではなく、どのベンチマークで、どのバージョンで、誰が測定したのかを確認する習慣が、AIニュースを読む側にも求められている。
「Token工場にはならない」という戦略的選択
LongCat-2.5を理解する上で見逃せないのが、美団CEOの王興が8月の決算説明会で述べた方針である。
「我々はToken工場にはならない。モデルとAI製品は主業を支援し、ユーザー・加盟店体験と経営効率を高めるために使う」
これは単なるスローガンではない。LongCat-2.5の能力設計に直接反映されている。同モデルは商業分析能力を重点的に強化しており、技術ブログでは、ブランドの多渠道経営分析(複数の販売チャネルを横断した経営分析)において支払い総額が23.2%成長する一方で販路利益が1.7%下降した「成長の質の問題」を自律的に識別し、在庫リスクやリピート率を踏まえた差別化された資源配分案を提示した事例が紹介されている。
この能力を支えるのが、LongCatシリーズを基盤としたAI経営ワークベンチ「妙手(Miaoshou)」だ。すでに古茗(Guming)、徐升記、益禾堂などのチェーンブランドに導入され、ブランド経営分析、店舗管理、成長獲得といった高付加価値シーンで活用されている。
汎用APIを外部に販売するDeepSeek型の戦略と、自社の本業に深く統合する美団型の戦略。中国の大手テック企業の間でもAIマネタイズの方向性が分化しつつあるなかで、LongCat-2.5は後者の代表例として位置づけられる。
開発者にとっての実用性
技術的な面白さに加えて、LongCat-2.5は開発者フレンドリーな設計でもある。
APIはOpenAI互換とAnthropic互換の両エンドポイントを提供し、Claude Code、Codex、Hermes、OpenCode、Kilo Codeといった主要なエージェントハーネスでの動作が確認されている。コンテキスト長は入力1Mトークン、出力最大131Kトークン。価格は入力**$0.30/100万トークン**、出力**$1.20/100万トークン**、キャッシュ済み入力は$0.006と、競合と比較しても低価格帯に設定されている。
ただし、注意点もある。モデルの重みは現時点で公開されていない。LongCat-2.0はMITライセンスで公開されたが、2.5についてはGitHubとHugging Faceのリンクが「Coming soon」のままで、公開時期もライセンスも未定である。セルフホストを前提とする企業にとっては、この点が導入判断の分かれ目になるだろう。
まとめ:LongCat-2.5が示す三つの示唆
LongCat-2.5を一言で表すなら、「制約条件下での工学的創意工夫が、フロンティアとの距離をどこまで縮められるかを示す実験作」である。
第一に、国産算力による兆パラメータ級モデルの訓練が「可能」から「効率的に反復可能」な段階へ移行しつつあること。第二に、ベンチマークの主張はバージョンと測定主体によって大きく変わるため、批判的に読むリテラシーが求められること。第三に、AIモデルの価値は「汎用APIとしての性能」だけでなく、「特定ドメインへの深い統合」によっても測られる時代に入ったこと。
AI Trend読者としては、LongCat-2.5の重み公開の有無、そしてTerminal Bench v4.0のような実務寄りベンチマークでの今後の改善度に、引き続き注目したい。
参考リンク
- 美団 LongCat-2.5 技術ブログ:https://longcat.ai/blog/longcat-2.5
- 体験・API:https://longcat.chat